kosukehirai

これは備忘録若しくは何年後かの私に向けたメッセージ

老婆の彼女#1

※これは僕の空想上の自分である。エッセイ風の小説だ。

 

時計を確認すると夕方の5時半だった。

僕は久しぶりに通った道に奇妙な一軒家を見つけた。壁一面がツタで覆われていて、ところどころに名前も知らない花があしらわれている。

西日は鋭く僕らを照らしているが、このツタや花は一向に無表情のままであるように感じた。辛くもないし、嬉しくもない。そんな風だ。別に普段は物にも感情があるなんて思わないけれど、この時ばかりはそう感じた。

僕は何かに引き付けられるように近づいていった。ここで僕の奇妙さが拭えない理由がようやく一つ分かった。

これらの植物は全部作り物なのだ。壁を覆っているツタも。この名前も知らない赤い花も。自分の手で触って確認してもわからないほど精巧に作られている。最終的には、この赤い花の香りを嗅いでようやくわかった。

玄関の前には少し控えめな門があり、それもツタで覆われている。表札も何もかも覆ってしまっている。

この家の一つ一つの異様さに呆気を取られていると、間もなくしてキィィと扉が開く音がした。

「なにか用ですか」