kosukehirai

これは備忘録若しくは何年後かの私に向けたメッセージ

老婆の彼女#2

※これは僕の空想上の自分である。エッセイ風の小説だ。

 

 中からはいかにも老婆らしい老婆が出てきた。真っ白で縮れた髪の束を後ろの方で結って丸めている。

 血管の浮き出た左手に右手を重ね、両腕で握られた杖が腰を支えている。第三の足だ。そう思ってしまう程その杖には負荷がかかっているように見える。

「何かそんなに不思議ですか」老婆はか細く震えた声で言った。

「いや、珍しいなと思って。これ全部作り物なんですね。」

「ああ、いつからだったかなあ。初めはホンモノだったんだけど。まあ、立ち話も疲れるからお上がり。」そう言いながら私の返事はそっちのけに、家の中に入っていった。

 僕は少し躊躇したが、何もこの後予定とかは無いので拒む理由も無いかと思い、その老婆の後ろをついて行った。

ドンッ、ミシッミシッ、ドンッ、ミシッミシッ、ドンッ、ミシッミシッ

 杖が床を叩く音と僕の歩く時の床の音が交互に奏でる。この家が僕を歓迎しているようにも感じる。

ドンッ、ミシッミシッ、ドンッ、ミシッミシッ、ドンッ

「あそこにでもかけてて。お茶でも入れてきます。」そう言って奥の台所らしき所に入っていった。

 僕は言われた通りの所へ行き、赤い花柄の座布団に座った。部屋の真ん中にはどっしりとした木製のテーブルが据えられている。もう先ほどまで痛いほど浴びていた斜光すら届かなくなっていて、周りに何があるのかはっきりは分からない。

 ここにきている朧げな光は、反射に反射を重ねてようやく届いているものであるようであるが、そんな光たちが不自然に一点に集まっている場所を見つけた。

 仏壇だろうか。両開きの扉が、僕の祖父母の家で見たことあるようなのと遜色がない。

 勝手に開けても良いものなのだろうか。集まった光を背中で浴びて、それが僕を後押しする。

 取っ手を持ち、そうっと引いた。

 ダンッ、ダン

 磁石で留まっていた扉を引きはがす。なんの変哲もない仏壇だ。ブラックのボディに金色の装飾があしらわれている。

 折り畳みの扉を開くと、娘さんらしき写真があった。20代の半ばほどだろう。写真がモノクロなのは何かの趣味なんだろうか。しかしその背景に加工はなく、日常を切り取ったようなのをそのまま使用しているので変にどこか古臭さがある。

 その周りや隙間には埃1つ見当たらなく、装飾品も綺麗に保たれていてよく手入れされているのが分かった。あの老婆がこんな高いとこどうやって掃除しているのだろう、とか余計なことまで考えていた。

 

「ここにいたんですか」後ろから声がしたので振り向くと、目も開けられないほど眩しかった。

「あ、ごめんなさい。勝手に」僕は目が開かなかったが、後ろにいるのは老婆しかいないとわかっていたので、とりあえず謝った。

 僕はこの光が当たらない場所に移動し、やっと直視した。老婆は湯飲みを乗せたお盆を持っていたが、腰が曲がり過ぎていてただ持っているだけなのか、僕に渡そうとしているのかは定かではなかった。

「彼女は、もう60年ぐらい前の話かな。亡くなったのは」老婆は僕の前にお盆を置きながら言った。

「60年前って、どういうことですか。娘さんかと思ってました」

「だったら、わざわざ白黒になんかせんよ」老婆は微笑みを浮かべながら写真を見つめている。

 ご存命の娘さんごめんなさい。僕は今日謝ってばっかりだ。

 では、一体誰なんだろうか。親友の類だろうか。しかし友人の仏壇を作るなんてことがあるのだろうか。そんな猟奇的なことがあるんだろうか。

 僕は何もわからなくて黙ってしまった。